哲学から見た笑い
何故、人は笑うのかについては、2000年以上前から哲学者の間で語られている問題でした。古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「人だけが笑う動物である」と指摘しています。
プラトンは「笑いは大抵の場合、他人の不幸を愉快がる不道徳なものだ」と、ニーチェは「笑いというものは他人の不幸を喜ぶことだ」と笑いのなかには悪意のある性格が隠されていることを指摘しました。
しかし、17世紀には、スピノザが笑いと嘲笑は別のものだとして、嘲笑は悪であるが、笑いは善だと言い切っています。
デカルトにおいては、心身相関メカニズム着目して「笑いは身体活動である」としています。1
8世紀にはカントが「笑いは健康によく、笑いは緊張の緩和からくる」として、笑いが感情の動きにからくるものだと考察しています。20世紀にはいると、フロイトが笑いを「ユーモア学」に発展させました。
このように、歴史上名だたる哲学者が笑いの秘めたる力に着眼していたのです。
脳科学から見た笑い
感情の下位概念には情動というものが存在し、情動は通過する回路によって左右されます。
回路には快楽の回路(報酬系)と不快の回路(嫌悪系)があり、快楽の回路には神経伝達物質であるドバミンの分泌が関係し、快楽物質としてだけでなく、何か目的を持って行動する時点で、重要な役割を果たすことが分かっています。
笑いは、このドバミンと同様に、ある一定の行為を行う時の動機づけとして働くのです。つまり笑いは人をより一層前向きにさせて、モチベーションもアップさせることに大きな力になっていることが分かっています。
また、私たちの脳には神経伝達物質β–エンドルフィン(脳内麻薬)が存在します。
β–エンドルフィンが分泌されるとき、極限まで追い込まれて一線を越えると、ボーっとした気持ち良さがもたらされて苦痛が緩和されるような状況になるといわれます。
最近の研究では、笑いによってもこのβ–エンドルフィンが分泌されることが分かってきました。つまり、苦痛や不安といったものを和らげるうえでも笑いは重要な役割を果たすといえます。